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April 29, 2006

衝動買いの達人

 GWに入りましたが、いつもと変わらない風間です。<ええ、なんにも変わりませんとも!

 このGWにお部屋の大掃除をするぞー! と勢い込んで、まずはゴミ袋を買いに出かけた(そこからか/笑)わけですが、いつも買っているフロアが改装中になっていて売り場が分からず、とりあえず1フロア上に上がっていたところ『洋食器セール』の見出しが。
 並んでいたのが、マイセン、ウェッジウッド、ジノリ、ミントン、バカラ――危険な香りです。とても危険です。
 目に飛び込んできたのが、ジノリのオリエント急行マグカップとウェッジウッドのミニカップ(というよりお猪口?)。危険です。とても危険な香りです。
 回れ右をしようとした時に旦那の口から出た言葉――『あー、欲しかったマイセンの剣シリーズのティーカップが50%OFFだ!』 だめです。もう、彼の足は売り場に釘付けです。
 ……そして、風間家では、ティーカップが1つとコーヒーカップが1つ、マグカップが2つ、ビアマグが2つ、小さな器にもなりそうなフリーカップが2つ、ヌードル碗が2つ、お猪口が2つ、ダメになりはじめたドライフラワーの花の部分だけ入れたいなーと常々思っていた硝子の器が1つ、増殖しました。こんな大人はダメです。本当にダメなヒトたちです。
 こんな風間家は、もう5年以上二人暮らしです。その間、割ってしまったお皿は1枚だけです。カップにいたっては1つも割れていません。本当にダメな人たちです(がくり)

April 26, 2006

帝王って!(がくり)

 週末は、某方のところでたくさん美味しいものを頂いてまいりました。美味しかった……。美味しいものってなんでこんなに幸せにしてくれるんでしょうか……。

 様々な話をし、酒を呑み、美味しいものを食べ、また酒を呑み(笑)、ニュース番組で「汗かきルール」という談合の形式を学びひとつ賢くなった風間です。理系分野は若い頃に結構詰め込まれた感がありまして、なんとなく知っている単語が多いのですが、社会面の単語は本当に分かりません。――藤原○○の名前の多さに「日本史、無理!」、社会システムの単語の覚えられなさに「政経、無理!」そのために世界史選択だったワタクシですもの(涙)<センター試験はマークシートなので、カタカナの方がなんとかなったのですね
 最近、統計学にちょっと目覚めたので、経済関連はちびっと学んでみようかなと思ったりしますが、きっと無理でしょう。数字に眠気をさそわれてしまう理系……それはあまりに(以下略/笑)
 その席で「皇帝ペンギン」を見ました。思わず「帝王ペンギン」と言ってしまって、「帝王って!」と突っ込まれてしまいました。帝王じゃ、まるで夜を支配しているペンギンのようです。そんなのだめです!(涙)
 GWも間近ですが、私は家で大人しくWHOのサイトあさりを行う予定。WHO(世界保健機構)で定められている鍼の適応41疾患に関して、ソースを実際に確認しなくちゃ、なのです。<すごくマニアック(笑)

April 24, 2006

リンク:創作系(オンライン小説)

 創作系で、主にオンライン小説がサイトコンテンツのメインとなっているサイトさん。相互リンクのサイトさんには「⇔」印が、こちらから一方的に繋げさせていただいているサイトさんには「⇒」印がついています。

 百物語⇒(第1期参加):
怖い話を皆で創作して百物語を完成させようというプロジェクト。息永く続いている企画で、現在、第二期百物語が進行中です。

 森のハーモニー⇔:
創作サークルでご一緒していた秋月涼サンのサイト。柔らかで温かな印象のファンタジー作品が多く、読むと心が和みます。他に創作世界を背景としたMIDIなどもあり、音でも創作世界を楽しめるサイトさんです。

 夢乃欠片現乃一片⇔:
テラさんのファンタジー小説メインのサイト。サイトデザインからも分かるセンスのよさが、作品にも表れています。創作だけでなく、オンライン作品の紹介や映画評など、何度訪れても飽きない内容が盛りだくさんです。

 ⇔:
桜沢麗奈サンと高見澤繭サンのサイト。小説は平易な文章であるにもかかわらず心理を抉るような見事なものばかり。詩の分野では詩誌などに執筆していらっしゃいます。必見。

 雑想の館⇔:
里弥秀和サンの小説サイトです。暗い色合いのページ構成と、その雰囲気に似合った、描き出す文章の濃密さが私は好きです。

 HACTION⇔:
樹蒼青サマ・草薙あきらサマ・霜月楓サマ・渡田貴紀サマの4人の創作グループサイトさま。更新は頻繁で、とても活気があります。一粒で3度も4度も美味しいサイトさん。

 MOONSCAPE⇔:
詩と小説、そして心に残った本の書評が読める葵サンのサイト。暗い夜のような色合いの背景にまっすぐ言葉が綴られているのがとても素敵です。

 D PROJECT⇔:
プログラムを作っているやまサンと、イラストや小説を創作なさっているらんとサンのサイト。骨太な絵と仄かに闇の香りが漂う小説にノックダウン気味です。

 花迷路⇔:
文月夕サンのファンタジー中心サイト。イラストも小説もサイトの印象も、淡くて柔らかく優しいです。他に小説の紹介などもあります。

 Novelism⇔:
穂高あきらサンの創作サイト。多様なオンライン小説とともに、オンライン小説の感想・お役立ち情報など、オンライン小説に関するたくさんの情報を手に入れることができます。

 カノープス通信⇔:
冬木洋子サンの、やわらかい印象のする文体が特徴のファンタジー中心サイト。秘められた残酷さが美しいと思えます。

 Twilight of The Gods⇔:
樋渡ゆうぞーサンのオンラインSFファンタジー小説サイト。看板小説は『神々の黄昏』――長編SFファンタジー小説です。日常と人柄が滲み出る雑記がツボです。

 Pen-Guin 館⇔:
香田朔也サンのオンライン小説サイト。完結済みの作品が多数掲載されています。小説の共同企画などもあり、思わず長居をしてしまうサイトさんです。

 kanan⇒:
Decoサンのオンライン小説サイト。看板小説『平原<Heigen>』はオンラインSFファンタジー小説の佳作です。短編集『心の中の一つの場所』も、心に沁みる作品集となっています。

 Shafts of Shining⇔:
とみ~サンのオンラインファンタジー小説サイト。他に車をメインとした別館もあります。車への愛に溢れた記事に、胸が高鳴ります。

 E.I.H.N.⇔:
にしい圭人サンの三国志のオリジナル創作、三国志関連ゲーム・ゼノギアス等の創作が多数掲載されているサイトさま。私はすっかり周瑜と孫策の虜です。(※一部分女性向け)

 LIFE⇔:
オリジナル小説がメインのshizukaさんのサイト。他に175Rファンサイトも運営していらっしゃいます。

 東の森 西の海⇔:
西浦忍月サンのオンライン小説サイト。幻想的なファンタジー小説と俳句、オンライン素材として使用できる写真も盛りだくさんです。

リンク準備中:
百 年 恋 慕。:サイト準備中のため
web版陬生学園:小説コンテンツ一時閉鎖のため

お疲れさまでした:
煌きに焦がれて

April 21, 2006

胸を張って

 胸を張ってオンラインノベリストと、今日だけは言えそう! な風間です。
 我が家の辞書は『旨を貼って』と変換し、『オンライン述べリスト』と変換しました。いつも胸を張れず、ノベリストじゃない日常だったということが非常に良く分かる変換結果です。

 MTのバージョンを上げた際に、過去の記事を全て移行したのですが、以前までは入れていなかったカテゴリーごとの前後の記事リンクができるプラグインを入れたこと、以前の記事とはログの保存場所を変えたことで、連載部分の記事内容に修正を加える必要があり、本日、バイオSF部分をようやく修正したのですが、その際、ついつい全文読み返してしまい、何を血迷ったか「昔の私、頑張ってたよ、偉いよ」と誤解してしまい、挙句、「続きを書きたいよ、私だってオンラインノベリストだよ(たぶん)」と強く思ってしまったので、続きを書きました。
 ……推敲していないので、いろいろボロが出てしまいそうですが;
 そして、某所伝いで遊びに行かせて頂いたサイトさまの小説を読んで、猛烈な愛情を感じ、「きっと感想出すよ、私だってオンラインノベル読者だよ」と強く思っております。
 今日は、オンラインノベルなヒトだった風間です。

 ――ちなみに、熊には出会わなかったので戦いませんでしたよ(私信)

第二章『EVIL』 (1)

 ――僕に与えられた遺伝子は誰のものですか? Mについて教えてください。知りたいんです、自分自身のことを――。
 いつもの彼なら、落ち着いた柔らかな表情で窺うようにそっとそう問い掛けるだろう。琢己の顔に浮かぶ表情をつぶさに観察しながら、少しでもそこに苦痛の色が見えたら、すぐにその発言を翻すつもりで――。だが、簡単な英語で書かれたその短い文章には、いつもの彼らしくない、強固な意志が見え隠れしていた。

「彼は――AOMCです。私が5年前に創った……」
 激昂した千恵子の問いに答える琢己の声は震えていた。
 ――何故めぐみの顔をしているの?
 千恵子は確かにそう言った。千恵子が語った出産の時の話とつき合わせると、一つの推測が生まれる。――俄かには信じ難いが、しかし、いったんその推測を思い浮かべると、真実はそれ以外にはないように思われるのだ。
「まさか……」
 ――AOMCのクローニングのために使用された卵子は……。
 それ以上言葉を綴ることが出来なかった。美都は何も言わず、ただ千恵子の痩せた体を抱きしめた。
 沈黙と緊張が支配する中で、意を決したように琢己は端末の前に座った。
「何をするの?」
 深呼吸をして通信スイッチを入れた琢己を、美都は訝しげに見上げた。
「踏み台を幾つか踏んだ状態で、直接コンタクトをとる。もう、セキュリティーチェックを使った目眩ましは出来ないだろう」
 既に琢己は最初の踏み台へとアクセスをし始めていた。
「確かにそうだけれど、危険だわ!」
「地下ではよくやっている。そのための安全な踏み台も幾つか用意してある。もちろん奴ほど見事にやれるとは思わないが、EVILへアクセスするよりも、EVILからのアクセスの方が楽だろう」
 端末機の画面が暗転した。最初の踏み台を使って、更に次のアクセス場所へ移動したのだ。
「コンタクトをとって、どうするというの?」
 美都の胸でぐったりとなっている千恵子が、震える声で尋ねた。緊張の糸が費えたように、千恵子の体は力を失っていた。
「奴をここに――EVIL内に保護する。娘さんの卵子がクローニングに使用されたのなら、奴の体の中には、『k-2011』の抗体がある可能性がある。もしも奴が廃棄されていないという事実が連合に知れたら、奴は必ずEVILに拉致され、場合によっては凄惨な人体実験さえも行われるだろう。奴は、人でありながら、人ではない。奴は慰め程度の人権の保護さえも受けられないんだ」
 はっとしたように美都は息を飲んだ。
「それに――。奴が突然あんな質問をしてきた背景には、何かがあるはずだ。奴は、自分への遺伝子提供者が、現在も生存している少女のものであるという事実を知っている。場合によっては、娘さんの居場所を知る術が生まれるかもしれない。彼女も保護しないと切羽詰った連合が何をするかわからない。奴らは――奴らは、誰かを闇の葬ることに何の躊躇いもない、そういう奴らなんだから!」
「保護するというの? EVILの研究員であるあなたが?」
 揶揄を込めた千恵子の言葉に、琢己は首を振った。
「正式なEVILの研究員じゃない。本当はEVILに再び足を踏み入れたくなんてなかった――畜生、だから今回、俺を研究員にすることに何の反対もなかったんだな」
 吐き捨てるように琢己が呟いた瞬間、ピと軽い音がして不意に端末機の画面が明るくなった。コンタクトしたのだ。
「詳しい話は後だ。美都、セキュリティチェックの様子を伺っていてくれ」
 美都はおとなしく離れた場所にある端末に手を伸ばした。画面にゆるやかな波形が現れる。そして、それが突然乱れた。強制的なセキュリティチェックが始まる。
「ダメ! 回線を切って!」
 琢己はすばやく回線を切り替え、わざと過負荷のプログラムを実行させた。負荷の原因を感知したチェック機能が、軽い警告音を発してプログラムの終了を画面上で促す。
「クソ!」
 琢己は吐き捨てるように呟くと、まだ警告を出し続けている画面を、忌々しげに睨み付けた。
「琢己、冷静になって。まず、考えなくては」
 美都は床に倒れ伏したままの千恵子を抱き上げると、そっと脈を取った。
「脈が不正だわ。ベッドで休みましょう。別室に居るのがご不安なら、ここに寝台を持ってきますわ。情報を整理して、そして真実を探りましょう」
 千恵子の目は色濃い疲れを見せていた。戸惑ったように美都を見上げた千恵子は、小さく頷くと、寝台は要らない、車椅子を下さいと、しっかりとした口調で言った。


「情報を整理しましょう」
 美都はそっと千恵子の膝に毛布をかけながらそう言った。
「事の発端は『k-2011』でよろしいのですね?」
 千恵子は頷いた。小さく溜息を吐き、自ら封印してきた過去を語る。
「『k-2011』は主に鳥に感染するピコルナウイルス科のウイルスを変異させたものが原型で、その発見のきっかけは、渡り鳥の原因不明の死滅でした。北から飛んできた鳥が、次々と死んでいった……」
 鳥の体内からウイルスを同定して、そのウイルスが0度以下では完全に活動を停止することを発見したのは、助手の千恵子だった。すぐに発症中の鳥を冷温室に入れ、冷たい実験室の中で活動を休止した活性ウイルスを分離、保管した。
 すぐに上からの指示で同じピコルナウイルス科の別のウイルスと掛け合わせるように指示された。そのウイルスには、紫外線特性があり、紫外線にのみ反応していたその特性の幅を広げて、紫色光線に反応するように改良が重ねられている途中で掛け合わされ、『k-2011』となった。
「色々な活用法が考えられました。最初は、遺伝子治療のための運び屋ウイルスとしての活用が主目的だった。――少なくとも、私たち研究員はそう信じていたのです」
 状況が一変したのは、皮肉にも千恵子の感染がきっかけだった。
「慎重すぎるほどに私の体と胎児は検査を繰り返させられました。私はそれを嬉しいことだと感じていた。心配してくれているのだと。けれど、違ったんです。既に、羊水中に微量の不完全な抗体が検出されていて、周りはその抗体が完全なものとなるのを待っていただけだった。とうとう羊水検査が出来ない時期になっても抗体が不完全なままだったので、彼らは最後の手段に出た……」
 じっと耳を澄ませていた琢己が、小さくため息をついた。
「卵巣の摘出ですか……」
「臍胎血からは完全な抗体が検出されました。けれど、それはとても微量で、しかも不安定だった。彼らは卵巣に異常があったから手術したと私に告げた。最初は信じた。けれど――」
 秘密裏に研究が始まったのだと、千恵子は言った。
 ウイルスを人工雪の中に潜ませ、体内に潜り込ませた後、発症のきっかけとなる虹を空にかける。雪と虹で人を死に導く、まるで童話のように美しくて残酷な兵器の研究が――。
 その噂が耳に入った瞬間に、母としての本能が告げた。このまま研究室に居るということが、我が子にとってけして良い結果を生まないと。新生児と母体の意思の尊重という人権を楯にして、承諾を得ないままに卵巣摘出をしたEVILを訴え、弁護士である友人の助けを借りて逃げた。その友人の生家でもある、巨大財閥からの支援で運営される私立大学の庇護の下、見かけ上は穏やかな生活が戻った。だが、実際にはナイフの刃の上を渡るような生活だった。
 転機はすぐに訪れた。めぐみの体から抗体が失われたのだ。もともと不安定だった抗体は、永久免疫としての機能を持たなかった。
「では、抗体は?」
 抗体はとうに失われていたのだ。問いかける美都の声は震えた。
「今となっては、再度めぐみに弱毒株を感染させて免疫記憶を呼び覚ますか、あるいは、奪われた彼女の卵巣から生成するか――その卵を使用して生み出されたというAOMCを……」
「やめてくれ!」
 続く言葉を琢己が遮った。搾り出す悲鳴のような声だった。
「よく……、よく分かった。どうして俺があんなに簡単に地下に逃げられたのか。どうして不思議なくらいレジスタンスの摘発が温かったのか。――必要だったからだ。俺の知識とボウズの体が、いつか必要になるかもしれないと、そう踏んでいたんだ。踊らされただけか。手の平の上で転がされただけか」
「琢己……」
 もっと疑っても良かったのだ。容易に逃げ切れたその理由を。
「悔しいなら、守りなさい。私の夫が、全てを捨てて何かを守ろうとしたように」
 まっすぐに千恵子は琢己を見つめていた。怒りとも哀れみともつかない、強い視線が琢己の顔に当てられていた。
「俺に、守れると?」
「琢己!」
 己を嘲るような琢己の言葉に、美都は我知らず叫んでいた。
「守れるかではなく、守りたいかです。所詮、人間一人の力など知れている。守ろうともしなければ、何も守れなどしない。今なら、夫の取った行動の意味も、別れの言葉の意味も分かる。私が同じ立場でも、きっと同じことをしたわ」
 決然とした態度だった。弱々しく車椅子に身を沈めながら、それでも千恵子の体からは抗えない力が滲んでいた。
「私は守るわ。何としても守る。夫がその身を捨てて守ろうとしたものを、私は守るわ」
 ゆらりと千恵子は立ち上がった。膝にかけられていた毛布を払い落とし、よろめきながら手近な端末の前に座った。
「美都さん、リーダー権限で私に端末へのアクセスの許可を。このプロジェクトの主要データへのアクセス権限と上へのコンタクトの手段をください。そして連絡を入れて――小杉千恵子の凍結されたIDを復活させ、当時からこのプロジェクトまでの期間の『K-2011』に関連するデータを送信するようにと」
 戸惑ったような美都を見つめて、千恵子は小さく笑った。
「上は小躍りするはずよ。おそらく大喜びで機密に関する書類にまでアクセスさせてくれることでしょう。――あぁ、連絡の時に付け加えておいて、私がCPESの処方を望んでいると」
「CPESが必要な体なのですか?」
 琢己が慌てたように尋ねた。CPESは細胞融解抑制因子を含んだ抗ウイルス薬だ。
「いいえ、でも、上はそれで誤解するはずよ。完全な感染体ではなくても、母体であった私にもやはり『K-2011』の感染の影響が残っているのだと。私の中のDNAの一部が、何らかの形で『K-2011』によって組みかえられている可能性があるのだと。そう誤解されても良いような生活を今まで続けてきたわ」
 10年以上だ。彼女がこの研究所を辞してからの長い年月、彼女はその生活の全てをEVILを欺くことにかけていたのか。琢己は千恵子の痩せた横顔を呆然と見つめた。『実際にはナイフの刃の上を渡るような生活』――彼女が言ったその言葉が、文字通りの意味を持っているのだと、ようやく理解した。
「あなたは」
 琢己の声は震えた。
「私の肉体は、めぐみと貴方が言うところの『坊主』であるAOMCの、おそらくは最後の砦となるでしょう」
 視線が絡んだ。母の顔の上に、かつての科学者としての顔を乗せ始めた千恵子の顔を見つめ、琢己は立ち上がった。そして机の上に投げ出していた上着を掴み取る。
「どこに行くつもりなの?」
 その意図にようやく気付き、美都は慌てた。琢己は問いには答えず、慌しく必要なものをポケットに収め始める。
「琢己!」
 空気が張り詰めていた。
「ここを出てどうしようというの」
 琢己は答えない。だが、既に彼の意志は固く、美都がどんなに説得しても揺らぎはしないように思えた。
「探す……」
 ようやくぽつりと琢己が答えると、畳み掛けるように美都は叫んだ。
「何を、どうやって! いま、割ける時間がどこにあるというの? あの培養スピッツを見たでしょう? こうしている間にも、あのウイルスはどんどん増殖しているの。無駄に出来る時間なんてないのよ!」
「だからだ。時間がないから、探すんだ」
「分かるように言ってよ! 貴方が何を考えているか分からないのよ!」
 琢己は顔を上げた。苦しげな表情が浮かび、唇の端に噛み締めた痕が残っていた。
「いいか、まず、『M』についてだ。坊主が――AOMCのヤツが問いかけた『M』だ。AOMCのプロジェクトは、一時、暗礁に乗り上げていた。どんなDNAを使っても、心筋の融解を防ぐことが出来なかった。目の前で、次々と実験体は心筋融解を起こして死んでいった。そんな時に、EVIL側から、合成神経増殖因子との適合可能性があるDNAとして提供されたのが、『type-M』――数個の卵細胞だった。その卵細胞が持つDNA鎖には、一部に特異な変異があって、その変異部分が神経増殖因子の一部分と酷似していた。EVIL側は、『ある、健康体黄色人種女性の卵細胞』だと言った。だから、MongoloidのMをとって、『type-M』だと」
 まくしたて、琢己は机の上に置いた拳を握り締めた。それでも激昂を抑えきれないように、琢己は机を拳で叩いた。
「当時も、微かに疑問に思った。偶然、合成神経増殖因子と酷似した変異を持つDNAサンプルが手元に存在するものだろうかと。だが、俺は考えるのをやめた。目の前の実験に没頭したかった。なんとしても、自分の実験を成功させたかった。――だが、冷静になればすぐに分かる。あの神経増殖因子もまた、『type-M』を使って合成されたものだったんだ。適合可能性があるのは当然だ。元が同じものなんだからな」
「でも、いったい、何を思ってそこまで『type-M』に拘ったというの?」
 美都の言葉が終わらないうちに、ふいに横から千恵子の掠れた声が聞こえた。
「AOMCプロジェクト自体が、『type-M』の因子を持つ体細胞を――人工体を作ることを目的とされたものだったのだと、貴方は、そう考えているのね? そして、それは『k-2011』ウイルスの研究をさらに進めるため、あるいは、その研究によって必要となってくるだろうウイルス血清の研究のモルモットを作るための研究だったのだと。『type-M』のMは、めぐみの頭文字なんだと、そう、考えているのね?」
 琢己は息を呑んだ。そして、静かに頷いた。
「俺が地下に潜ったとき、あっけないほど簡単に逃げおおせることが出来たのも、俺が坊主を連れていたからだ。EVILとレジスタンスは裏で繋がっている。繋がっていたから、逃げることが出来た。でも、繋がっている以上、本当に逃げたとは言えない。――ただ、檻が広がっただけだ。現実に、いま、俺はEVILの中に居る。上の連中は全部知ってるんだ。『type-M』のDNAが誰のものであったのかも、そのDNAを使用したクローンAOMCが存在していることも。そして、もう、時間がない――だとしたら、次に上の連中が考えることは何だ?」
「琢己……」
 美都は目を閉じた。大きく息を吸って、吐き出す。涙が流れそうになった。
「奴らは、必ず、めぐみさんと坊主を利用する。めぐみさんはもし利用されそうになっても、保護できる道はあるだろう。――だが、生物機械である坊主には、人権なんてないんだ。体を切り刻まれても、それを止める法律なんてない。罰せられることもない」
「琢己、もういい――。もう、言わなくていいから」
 そう、EVILなら、実行するだろう。おそらく、琢己が進めていたAOMC計画は崩壊したのではなく、上の決定で凍結されているだけなのだ。だから琢己は消されることなく、生かされている。『type-M』を持ったAOMCは、現実に 一個体存在していて、そしてそれが何らかの理由で使用不可になったとしても、琢己さえ生きていれば新たに作り出すことも可能なのだ。
 ――やはり、EVILは牢獄なのだ。
「二人を探すというのね? EVILによって何か危害を加えられる前に、二人を探して保護したいのね?」
 美都は、再び俯いた琢己を見つめた。
「守りたいんだ……」
 消えそうなほど小さな声で、琢己が呟いた。
 不意に、美都は琢己がまだ少年の頃に失った妹の話を思い出した。琢己は心臓病だった妹を治してやりたくて科学者を目指したのだという。彼が科学者になる前に、少女はこの世から消えてしまったが、琢己がクローン技術を専門分野としたのも、より生体適合性の高い人工臓器を――人工心臓を作り出すためだったのではないだろうか。彼は、失ってしまった妹に新しい心臓を与えてやりたくて、必死に科学の道を突き進んだのではないだろうか。AOMCである少年を地下に潜ってまで必死で保護してきたのは、己の研究の懺悔だけではなく、どこかに彼の妹の面影を見つめているからなのではないか。
「――分かったわ」
 美都は自分のネームプレートを差し出した。
「時間は、ウイルスの解析結果が出揃って、類似ウイルスの血清と合成する予備実験を始めるまで――1日くらいはあるわ。千恵子さんの予想通りなら、アクセスを許可されたデータの確認と解析を含めて、もう少し時間が取れるかも知れない。このプレートを使えば、全てのドアを開けることが出来るし、事前にブラインド操作をして、監視カメラを止めることも出来る。プロジェクトリーダーにだけ与えられた特権――使って」
 琢己は差し出されたネームプレートを黙って見つめた。なかなか受け取らない琢己の手に、じれったくなったように押し付けると、傍らの机の上に放置されていた小さな端末とカードケースを差し出す。
「リーダー用の端末と、予備のカードよ。これで 新規カードも作れる。リーダー用端末にはクレジット登録もされているから、必要な費用があるならそこから使ってちょうだい」
 琢己は突然の美都の態度に呆然としたように立っていた。反対され、反対を押し切って飛び出すことを自分自身の推進力にしようという目論見は、見事に外れたのだ。
 美都はそんな琢己の様子など目に入らぬように、手早く端末とカードを皮のケースにしまうと、突っ立ったままの琢己の腰に手を回し、ベルト通しに専用の金具で繋ぐ。
「美都……」
 琢己は自分の目の前で揺れる美都の髪の流れを見た。そして、自分の体にまとわり付くようにして、自分の身支度をしてくれている細い指を見た。
「美都」
 顔を上げたその細い体を抱きしめていた。抗いがたい衝動だった。

April 20, 2006

ちょっとゆとりが出た今日この頃

 仕事の山場を(たぶん)越え、なんとなく体も休まり、さぁ本格的に家の掃除ですよ風間さん! という今日この頃です。

 2日おきに寝るという、若いときにしかできなさそうなことをこの歳でやってしまい、結構疲れが尾を引いている感じだったのですが、寝て寝て時間が許す限り寝て(笑)、今週くらいから本格復活。
 月曜日は午後から年休を取った旦那と近所にできたしゃぶしゃぶ屋さんに行き、火曜日は6月に行く予定の宮古島のチケットの手配をしに出かけて、その足で麻布の米屋さんでシチューを食べ(お米が美味しいのです、シチューも美味しいですが)、その足で東京都美術館の『プラド美術館展』へ行ってきました。もっと混んでいるかと思ったのですが、平日の午後なので、わりあい楽に鑑賞することができました。ダヴィンチ・コード読了後でいろいろと能の本を漁っていた後だったので、なんだか絵を見ながら(宗教画が来ていましたので)いろいろなことが――キリストの十字架と能で使われる杖の共通点とか――頭の中をぐるぐるとしておりましたが、心に残ったのはいくつかの肖像画でした。似顔絵もそうなんですが、その人の中身まで見えてくるような絵が好きらしいです。
 その後、予定していたピアノのリサイタルまでに時間が空いたので、八重洲で本屋に行き、能の本を仕入れてラウンジで読み、東京駅でおにぎりを食べ(お味噌汁がたっぷりで幸せ)、サントリーホールでピアノを聴いて帰宅――という幸せな1日。
 水曜日は、3年ぶりくらいになろうかという麗奈嬢との再会。鉄道公園には初めて行ったのですが、思った以上に楽しめました。新幹線の運転席とか、蒸気機関車とか。途中から旦那も参戦して(笑)楽しい一日でした。
 そして、すっかり勇気と英気を養って、いま、まさに絶好調、今なら熊とも戦えそうです<戦わなくていいから;

April 18, 2006

エフゲニー・キーシン ピアノ・リサイタル

 エフゲニー・キーシン ピアノ・リサイタル in サントリーホール を聴きに行ってまいりました。
 曲目は、ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第3番 ハ長調 op.2-3」「ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調 op.81a「告別」」、ショパンのスケルツォ全4曲。

 実はこの日は前々から決めていた『お出かけの日』でして、朝から家を出て、食べに行きたかったお米屋さんのシチュー→美術館→本屋さん→キーシンのピアノ、というたいへん贅沢な1日でした。
 キーシンのピアノ、旦那は10代の頃に聞きに行ったことがあるのですが、私は初めて。サントリーホールの2階席も初めて。
 大盛況で、チケットを譲って欲しい旨を書いた紙を掲げて外に立っている人が居てびっくり。
 サントリーホールって縦に長いと錯覚していたんですが(常に1階席だったからかもしれません)、2階席に座ってみると、さほど距離感を感じませんでした。かなり傾斜があって舞台も見える位置なので、なんだかちょっと意外でした。
 演奏は文句なしに良かったです。旦那も満足な様子で、ちょっと幸せでした。

 アンコールは5曲。シマノフスキ「エチュード変ロ短調」、ショパン「エチュード嬰ハ短調」、リスト「ハンガリー狂詩曲第10番」、ショパン「ワルツ第7番」「ワルツ第6番「子犬」」――5曲!? とちょっとこれにもびっくり。なかなか客席の明かりがつかないし、花束を渡す人のタイミングなどで、何回舞台と袖を行き来したんだろう、という感じです(笑) 手が腫れました。

April 16, 2006

気持ちが少し落ち着くの巻

 たいへんたいへんご無沙汰しております。アナタ、ブログなのは更新しやすいためじゃないんですか、そもそもDiaryってのは”日記”ですよ、月記じゃないんですよ? ――という感じでございますが、私は生きています<文脈、非常に無視

 どうも歳を取って気持ちが弱くなったのか、自分の精神状態を万全に維持できていなかったのか、意味もなく海より深く落ち込んだりしたのですが、それはもう風間という特性を持って生まれましたので、一晩寝たらすっかり復活しております。
 修羅場の間を潜り抜けるようにして(というより、4月頭は本来仕事の修羅場を終えている予定の時期だったのに、すっかりそれがズレこんでしまったのですが)穂高サンに誘っていただきました「ライフ・イン・ザ・シアター」の感想と、日比谷公会堂に場所を移して公演された「夜桜能」の感想をまだ書き起こしていないので、そろそろ書き起こしておかねば、と、思います。
 そんな今週は、火曜日にキーシンを聞きにまいります。ついでにできればプラド美術館展も行けたらいいなと思っております。――が、きっと旦那が早起きしないので無理でしょう(笑)
 なんと、このキーシンのために、うちの旦那年休とりましたのですよ。やる気がみなぎっておりますね。

April 5, 2006

夜桜能第二夜

 靖国神社の夜桜能に行ってまいりました。その日は雨で、日比谷公会堂で公演に切り替えられ(初めてのことだったそうです)、通常より30分遅れでの開演となりました。

 野外能を期待していたんですが、あいにくの雨で、ちょっと寂しかったです。舞台上には急遽桜が生けられ、ライトでの調整がされていましたけれども、やはり、溢れる桜の中、薪の光で観たかった……。
 席は2列目とすばらしく近かったです(笑)
 お隣になった方が、毎年秋にインド舞踊の奉納舞をされているという方で、初めて会った方だったんですが、なんとなくお話しするようになっていろいろと教えていただきました(笑)

 演目は、舞囃子が「熊野」、狂言「酢薑」、能が「土蜘蛛」
 舞囃子というのは、一番のクライマックスを衣装を着けずに紋付袴のお囃子付きで演じられる演目のことです。
 狂言「酢薑」は、なんといっても野村萬氏の姿も声も絶品でした。ついついクスクスと笑ってしまいます。海外の方もいらっしゃっていましたけど、言葉が分からなくても、楽しかったんじゃないかと思います。
 で、最後が、これが見たかったから行った「土蜘蛛」
 ――席が、2列目だったんですが、かなり右よりだったので、私、初めて地謡の方々の背中を見ましたのです(笑) 舞台は、病床にあるワキの方の元へ女性がやってくることから始まるのですが、地謡の方とワキの背中で舞台の2/3が隠れて見えないという状態(笑)
 ただ、梅若六郎氏のお声などすばらしく、蜘蛛の糸がサービス満点に足元まで降り注いできたので、これはこれで滅多にない体験だなと思いました(笑)
 予習ができていなかったので、ほんとうに大まかな筋しかわかっていない状態でしたが、元々初心者でも分かりやすい演目だということで、とても楽しめました。
 ――結局、その後、謡本を買ってしまったのですけどね(笑)

April 2, 2006

ライフ・イン・ザ・シアター

 観劇からエントリー起こすまでに2週間くらいあいてしまったんですが、忘れないうちにメモって起きます。市村正規&藤原竜也二人芝居『ライフ・イン・ザ・シアター』<書いているのは4/20なんです
 お誘いいただいたのは、いつもの如く穂高サン@【Novelism

 若手とベテラン、二人の俳優の劇中劇と楽屋裏の様子から垣間見えてくる、人生の様々な場面――という物語。ぺーぺーだった若手が見出されて躍進し、時に失敗し、成長して一人の演劇人として歩んでいく横で、ベテランは円熟期からゆっくりと落ち、それでも舞台への愛と羨望の中で演劇人として板の上に立つ――どんな職種でも何をやっていても、何気ない日常に普通にある姿勢そのものなのですが、特にゆっくりと老いていくその背中に切ないものを感じました。……歳でしょうか(笑)
 さすがは二人芝居で立つだけあって、お二人の演技はすばらしかったです。特に市村正規氏の、いやみじゃない程度のプライドをほんの少し垣間見せながらも、才能ある若手に対しての愛情と演劇に対する愛情に溢れた、ちょっとコミカルでまじめな俳優――というキャラクターは、なんだかツボにはまってしまいました。
 場転が多く、その多くで様々な小道具の出し入れが行われたために、ぶつ切り感がどうしても感じられたのが残念でした。そのものズバリの小道具って、たしかにリアリティは出るんですけど、そこにこだわってお話が切れた気がして。感情の波が場転のタイミングとズレてしまったんです;
 役者さんはとても素敵で、お話も好きな系統だっただけにちょっと残念。